彼とは対談をしたことがあったので、試合前に控え室を覗き、激励の言葉でもかけようと思っていたのだが、会場に到着したのが試合開始30分前。さすがに遠慮して行かなかった。

満員の後楽園ホール。リングに上がった坂田の顔からは、「落ち着き」と「集中」、そして「気合い」が感じられた。


1R。パーラのフット&ボディーワーク、そしてジャブが流れを支配していたが、坂田が前進を強めてパーラが後退する展開になりラウンド終了。2R以降、坂田の前進が徐々に強くなる。

中盤から坂田がクリーンヒットを決めて会場が沸騰状態になることたびたび。しかし試合の流れはなかなか坂田ペースに移行することなく、最終ラウンドまでパーラのフットワークとボディーワークを見せ付けられて終わった。

パーラは“距離でボクシングをする”選手。
坂田が前に出る速度を上げても、パーラはそれに合わせて下がる速度を上げるだけ。追う速度を上げればそれだけ相手のスタミナは消耗するが、パーラのようにバランス良く体のリズムごとフットワークを使うタイプのボクサーはなかなか消耗しない。12Rぐらいは逃げ切ってしまう。

こういったタイプのボクサーを消耗させて捕まえるには“プレッシャー”をかけることだ。
「前に出ること」と「プレッシャーをかけること」とは違うのである。

前へ前へ出て追い掛け回さなくても、もっといえば、手を出さなくてもプレッシャーはかけられるし、相手のスタミナを消耗させることができる。

射程距離に入るか入らないかのギリギリの距離(対戦相手に、この距離に立たれることが一番緊張する!)でフェイントをかけると、相手は反応しないわけにはおられず、どんどん消耗していく。(相手の体のリズムを崩す)

坂田選手はスタミナや闘志など、あらゆる面で世界に通用するレベルにある。
プレッシャーとフェイントのかけ方をもう少し工夫すれば、パーラのような“天才的距離ボクサー”をも必ず攻略できるはず。

リングから降りて控え室に戻ってきたパーラは消耗しきった顔で、とても勝者の顔ではなかった。ほんとに悔しい結果。
また次回の世界挑戦に期待!

飯田覚士ボクシング塾 ボックスファイ