今回は長谷川穂積、高山勝成の世界戦2試合を解説した。
実況の鈴木建アナウンサーがネストール・ロチャに取材した時、
「第一ラウンドは大丈夫か?」というような質問をしたらしい。
序盤KO防衛を続けているチャンピオン、しかも前回は1ラウンド決着した王者に対して、挑戦者はビッグマッチの経験が少ない。
初の世界戦でのまれてしまうことはないか?対策は出来ているか?という意味だろう。
新井田豊前チャンピオンがローマンゴンサレスと戦った時のことを思い出した。
ハードパンチで序盤KOの多い相手にペースを取られないよう、新井田はうまく足を使い、引きながらも上体を低く、ガードを固めて対抗した。
しかし今回のロチャには、それが出来なかった。
また「長谷川の相手は弱い奴だったのでは…?」と見た人もいるだろう。
今回の試合、長谷川有利なのは間違いないが、どっしりと構え、ガードも堅い選手で、それを崩すのに中盤まで手こずるのでは?という関係者も多かったのだが…。
開始早々のチャンピオンのプレッシャー(ただ前に出るだけでなくテクニックとしてのプレッシャー)にロープに詰められ、上体を浮かされ、挑戦者はまんまと仕留められてしまった。
ロチャも長谷川の左ストレートの後に、自分の武器である“真っ直ぐ伸びる強い右ストレート”を何度か打ち込んでいる。くっつけばアッパーで突き上げようともしている。
それもチャンピオンは見きり、自分のコンビネーションをはめ込んだ。
チャンピオンのキャリア、テクニックの勝利だといえる。
長谷川の左ストレートから右の返しのフック。
チャンピオンの武器の一つだ。
今回も1R目のわずかな時間で距離とタイミングをはかり、狙いすまして打っている。
このコンビネーションで何が一番良いかといえば、左をちゃんと当てているところ。
よく返しのパンチを狙うあまり、ストレートが“出すだけ”になってしまう選手がいる。
ワンツーでも同じことだ。私が指導する時、ワンツーは「初めのジャブをしっかり当てろ!」という。ジャブだけなら強くて速いのに、ワンツーになるととたんにジャブが貧弱になる選手が多い。
ジャブが弱かったり縮んでいては、ただのテレフォンになってしまい逆効果。次のストレートは当たらない。
初めのジャブを速く強く打てば打つほど次のストレートが活きてくる。
ロチャは、左ストレートをしっかり当てられていたため、返しのフックは見えなかっただろう。
(もう一つ、左ストレートを当てた後、返しのフックを打つときには頭の位置を変えている。上のレベルではパンチを貰いながらでも打ち終わりを狙ってくる選手はいるので頭の位置を変えるのは必須。実際KOシーンでロチャもパンチを貰いながらも右を打ってきている。また、返しのパンチを打ちながら、もしくは打つより先に頭の位置を移動することで、相手の意識・視線をそらす効果があり、返しのパンチの的中率があがる。長谷川はその移動が大きいがピンポイントで打ち抜けるのは素晴らしい)
パンチが見えなかった挑戦者と、頭の位置をずらしながらもしっかり相手を見ている王者。
のちに長谷川は「アイツの試合は凄かった!」と語り継がれる伝説のチャンピオンになるだろう。長谷川穂積と同時代に生き、あんなKOシーンを生で見て興奮と共に記憶に焼きつけられるボクシングファンは幸せだ。
長谷川の体の動きやジャブのキレをみて、私は解説のなかで「調子が良かった」と言ったが、後で聞くと本人は減量の影響がかなりあったようだ。
防衛回数を伸ばすもよし、階級を上げるもよし、まだまだ伸びているチャンピオンなので楽しみだ。
ローマンゴンサレス対高山勝成。
久しぶりに思いを入れ過ぎた解説になってしまい、反省。
ポイントでは後半まで競っているのでは…と思ったが、大差がついていた。
ジョー小泉さんがWOWOWの解説で前に話していたが、最近ではジャブもポイントになることが増えてきた。ジャブも含めたヒット数が圧倒的に多い選手と、手数少なく空振りも多いが、数発強いパンチを当てた選手、どちらに10対9をつけるのか。有効打の多い方とは…。
今回は相手がグラッとしたパンチを当てた方にポイントがついたようだが、それにしてもあれほどひらいただろうか?思い入れのある選手の解説をしながらポイントをつけるのは難しいと、改めて反省した。
ゴンサレスのハードパンチで後半(いや、中盤からすでに)意識が朦朧とするなか、動き続けて攻めていき、チャンピオンになる執念を見せつけた高山。負けはしたが、観客に感動を与えた。
ボクシングファン以外の人にもぜひ見てもらいたい良い試合だった。
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