先日、NHKの『ディープピープル』という番組で、長谷川穂積、畑山隆則、浜田剛史チャンピオン3人が登場し、世界のレベルならではの、ディープなボクシング話をする番組が放送された。

ボックスファイの会員から、「長谷川チャンピオンが、いつも会長が言っていることと同じことを言ってて驚きました!」というので、ビデオを借りて見てみた。

そういえば、以前神戸で長谷川君と会った時に、数日前にこの番組の収録があったと言っていた。
なるほど、見てみたら、まさに私がジムで会員に話していることばかりだった。


「相手の呼吸をよむ」
“息を吸う、吐く”といった呼吸もあるが、もうひとつ“相手のリズム”という意味での呼吸の話もしていた。
まさに番組で長谷川君が言っていた通り、練習によって相手の呼吸は読めるようになる。読まなければ損だ。

私も現役当時、とくにボディを打つ時は、相手に息を吸わせてから打っていた。

具体的には、ワン・ツー・ボディを打つ場合、連続して3発打っても、相手は息をとめてこらえてしまう。
ワンツーのあと、わざとテンポをずらし、“息を吸わせる間”を作ってボディを打つ。
上級レベルの選手の多くはやっているはずだ。

あと、ガードの上下動、ステップやフットワーク、前足の踏み込むタイミングで、相手のジャブやストレートの打つタイミングや、または相手がパンチを打たない(打てない)タイミングがある。
そんな呼吸(相手のリズム)をよめるようになれば、グンとボクシングが奥深いものになる。

「相手のパンチを誘う」
相手のパンチの軌道、スピード、射程距離がよめてからやるべきものだが、ガードを下げたり(緩めたり)、頭の位置を左右に持っていって、相手の特定のパンチを誘い、あらかじめ用意しておいたパンチをかわしざまカウンターで打つ。

これも世界レベルではよく使われるし、さらに上のレベルでの駆け引きもある。
(誘いに乗ったふりしてカウンターのカウンターを打つ)

「呼吸をよむ」も、「パンチを誘う」も、要するに「相手の心をよめ!」ということ。

ボクサーは頭が良くなければダメだと番組でも言っていたが、私は相手の心をよめなければダメだと言っている。

呼吸をよむの同じで、心をよもうと続けていると、よめるようになる。
その努力を続けて世界チャンピオンぐらいになると、試合中の対戦相手じゃなくとも、人の心をよめるようになる。
マバタキひとつ、口の動きひとつ、ため息ひとつ、視線の動きひとつで、心をよむ。

ボックスファイの会員には、日頃からそんな話をしているし、やり方も教えている。
もちろん出来る会員は少ないが、「へぇ~凄いな~」と、喜んで聞いている。
たとえ出来なくても、知っているのと知らないのとでは雲泥の差だ。
そんなボクシングの奥深さを知るだけでも、試合を観戦する目も変わってくるだろう。

こんなディープな技術論をプロボクサーになるわけでもない、サラリーマンやOLばかりのうちの会員さんに教えるのも、私が目指す「ボクシングの底辺の拡大」の一つだと思っている。

長谷川君と神戸で会ったとき「飯田さんとディープな話がしたかった…」というようなことを言っていた。

もしそんな場があったら、ファイターに対しての逆プレッシャーのかけ方や、後半戦のメンタル的な駆け引き、クリンチの際のテクニック、相手のスタミナの奪い方など、ディープな話は尽きなかっただろう。